入学して初めて座った席は窓際から2列目の席だった

その隣りの窓際の席にはいつだって彼がいた

 

 

 

 

 

 

隣りの彼

 

 

 

 

 

授業はしっかりと受けるほうだった

せっかく高い金払って学校通ってんのに

寝てたら勿体無い

そう思って、とりあえず授業はしっかりと受けていた

 

別に

このまま軍人になろうなんて思ってなかったし

面倒臭いから、流れにのってなれるならなるし

なれないなら、そのままどっかに就職するし

軍人にそこまでこだわってはなかった

授業聞いてりゃ先生受け良くなるだろうし

そうすればまぁ、軍に入れなくても適当なとこに就職くらいはできるだろうし

 

隣りの彼は私とは正反対でいつだって寝ていた

授業中も、放課もホームルームも

私は授業を聞きつつ、たまに彼を見ていた

彼も、たまに眼を覚ましていて

窓越しに、いや、寧ろ

窓に映る彼とたまに眼が合ったりもしたもんだ

 

 

 

 

その日は日直だった

たまたま一番最後まで残っていた

日直の仕事は、日誌と教室の戸締りと電気を消すこと

1人2人とクラスメイトが帰っていく中、

彼はまだ机に突っ伏していた

面倒臭い、そう思いながら私は彼の体を小さく揺すった

「ハボック。起きなよ」

「んー・・・?」

身じろぐハボックの体

「起きなって」

彼は薄っすらと眼を開け私を見上げた

「・・・ か・・・」

眠そうにんー・・・と伸びをし、欠伸をする

体、痛いんだろうな

なんて思いながら彼を見る

「何?」

まだ眠そうに、また欠伸をしそうな声で言われた

私は別になんとも思わずに、まるで業務連絡を伝えるかのように言った

「ホームルームとっくに終わってる。帰んないの?」

「とっくに、って・・・」

ハボックは教室を見た

私のほかに誰もいない

外だってもう暗くなってきている

「お前、今までずっと教室にいたのか?」

来るだろうと思っていた質問だ

他に誰もいないのになぜ私だけがいるのか、誰だって思うだろう

「今日日直だから。日誌、書いてたの。そろそろ窓閉めて電気消したいんだけど」

別に本当のことだから

何も思わずそれを口にする

「あー・・・そう。わかった。帰るわ」

それから少し、彼と言葉を交わし

彼も行くと行ったので、一緒に職員室に行くことになった

職員室へ行くまでの廊下で会話は少なかった

別にしようとも思わなかったけど

そんなことしなくても

なぜか気まずくはなかったし

自分はよくても相手は、そう思って口を開いた

「会話、ないね」

「ねぇな」

会話がないんじゃなくて話題がない、あとからそう思った

もないし

でもこの沈黙もなぜか心地よかった

 

 

 

担任の計らいでハボックに送ってもらうことになった

『外は暗いから送っていけ』

別に軍人志望の私がそんなことしてもらわなくても

そう思って一度は断ったが、

頑と言わせない担任の態度、

どうでもいい、と思われるハボックの態度に

私は面倒でそれ以上のことは言わなかった

 

 

 

薄暗い家路

会話は勿論ない

遠くに見える雲は沈んだ陽の為、少し紅くなっている

綺麗だな

少し上を見ると薄暗い空に小さく星が輝いていて

目線を元に戻すと周りより少し大きめな星が目に入る

あー、あれが金星かぁ・・・

なんてどうでもいいことを思っていたとき

ハボックがぼそっと口を開いた

「もうすぐ卒業だな」

ひとり言のようにも聞こえたけど無視するのもどうかと思ったから返答する

「そうだね」

もしかしたらハボックは会話がしたいのかもしれない

そう思って、また言葉を続ける

「思えば私達、ずっと隣りだったね」

「・・・そういえばそうだな」

そうだった

入学してからずっとハボックとは隣りの席で

でも話すということは滅多になくて

話すといっても先ほどのように業務連絡のようなことだけ

「弁当食うときも」

ハボックが言った

「授業中も」

そうだった

ずっと隣りだった

「放課も」

「ホームルームも」

 

変なの

 

「でも全然喋ってないね。私達」

「そうだな」

「ね」

「ああ」

 

一緒に居て、何で心地良いんだろう

 

って、口数少ないよな」

「ハボックもね」

「そうだな」

「うん」

 

まぁ、口数少ないのは認めるけど

だけどハボックだって少ないじゃん

だから、かもしれない

隣りにいたとしても全然負担にはならなかった

 

 

「あ、私。ここ曲がってすぐだから」

もうすぐ私の家

別に気まずかったわけじゃないけど

寧ろ心地よくてこのままでもいいかと思ったけど

だけどまぁ、早く家に帰りたいというのも事実で

「そうか」

ハボックは普通に答えた

言葉の『もうここまででいい』ということを察したのかどうか

「わざわざありがと」

「別に」

「じゃあね」

「じゃあな」

 

初めてハボックとこんなに沢山話したな

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業して

私は南方司令部へ配属された

ハボックは東方司令部へ

隣りにいて当たり前の存在が隣りにいなくなった

 

 

 

 

なんだろう

なんでだろう

なんで

ハボックがいないというだけでこんなに虚しい気持ちになるんだろう

 

別に

好きとかそんな感情を抱いてたわけではないのに

なのに

どうして

 

 

 

 

 

少尉。上から移動命令が来た」

 

 

 

 

上司の言葉だった

私はセントラルへ移動になった

 

どうせ移動なら

彼のいる東方司令部へ移動になればいいのに

 

そう、思ったことに自分自身気付かないフリをして

だって別に恋焦がれてるわけじゃないし

ただ

当たり前のものがなくて心寂しいだけみたいな

そんな感情だったし

 

 

私には恋人がいた

南部に配属されてできた、優しい年上の人だった

だけど移動になって別れることになった

別に

凄く寂しいとは思わなかった

 

 

 

何がどうなったのか

ハボックはセントラルにいた

また彼が隣りに戻ってきた

隣りにいて当たり前の人がまた私の隣りにいることになった

 

「ハボック少尉、また隣りだね」

「ああ、そうだな。少尉」

 

また彼と再会してやっと分かった気がする

彼は私の隣りにいて当たり前の"酸素"のような人なんだ

だからいないと物足りない気がして

いると安心できる

 

そう

彼は私の"酸素的存在"

 

 

 

 

 

言い訳はしません(またかよ)

 

ブラウザバック推奨

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送